
二四五一年。
人類は地球へ帰還した。
二十二世紀の初頭。
地球上の人類は滅亡した。
核融合。
AI。
巨大な計算施設。
そして、増え続けるエネルギー消費。
人類は熱によって地球を埋め尽くした。
しかし、すべての人間が地球にいたわけではなかった。
月。
火星。
軌道上の居住施設。
そこには、わずかな人間が残っていた。
彼らは地球を見ながら生きていた。
地球はまだ青かった。
しかし、その青い惑星には誰も住んでいなかった。
地球上の文明は止まらなかった。
発電所も。
計算施設も。
自動工場も。
冷却設備も。
人間がいなくなっても、機械は動き続けた。
そして、やがて止まった。
自らの熱に耐えられなくなった。
百数十年が過ぎた。
地球の温度は少しずつ下がった。
海は再び青くなった。
大気も落ち着いた。
都市は植物に覆われた。
人類は考えた。
もう一度、地球へ帰ろう。
二四五一年。
最初の帰還船が地球へ降りた。
人類は久しぶりに地面を踏んだ。
土があった。
水があった。
海があった。
空気があった。
地球は、人類がいなくなったことで再び住める場所になっていた。
人類は文明を作り直した。
しかし、一つだけ問題があった。
エネルギーだった。
人類は、もう一度エネルギーを使わなければならない。
発電。
輸送。
農業。
医療。
通信。
そしてAI。
人類は前回の失敗を知っていた。
エネルギーを使えば熱が出る。
熱を地球に捨てれば、地球は温まる。
そこで、人類は考えた。
地表を温めなければいい。
熱を地下へ送ればいい。
二四七一年。
超高熱伝導素材が実用化された。
細い管を地球の深部まで伸ばす技術だった。
管の中を熱が移動する。
地表で発生した熱を、
大気へ捨てない。
海へ捨てない。
宇宙へ捨てる必要もない。
地球の内部へ送る。
実験は成功した。
地表の温度は上がらなかった。
海も温まらなかった。
大気も安定していた。
人類は歓喜した。
前の文明ができなかったことを、
今度の文明は成し遂げた。
廃熱問題は解決された。
二四八六年。
エネルギー消費は増えた。
しかし問題は起こらなかった。
二五〇一年。
AIが再び巨大化した。
世界中の計算施設が動き始めた。
核融合炉が増えた。
都市が巨大化した。
海底都市も作られた。
宇宙との輸送も増えた。
それでも、
地表の温度は安定していた。
熱は地下へ送られていた。
人類は安心していた。
二五三四年。
最初の異変が起きた。
渡り鳥の移動経路が変わった。
毎年同じ場所へ飛んでいた鳥が、
数百キロ離れた場所へ向かうようになった。
最初は気候変動が疑われた。
次に餌の変化が疑われた。
感染症も疑われた。
しかし、原因は分からなかった。
二五三七年。
海洋生物に異常が起きた。
サケが川へ戻ってこない。
ウナギの回遊経路が変わる。
ウミガメが産卵場所へ戻れない。
漁獲量が減った。
二五四〇年。
昆虫にも異常が確認された。
ハチの帰巣行動がおかしい。
採餌効率が落ちる。
受粉量が減少する。
農作物の収量が落ち始めた。
人類は原因を探した。
農薬。
病原体。
気候。
遺伝子。
海洋汚染。
あらゆる可能性が調べられた。
しかし、どれも決定的ではなかった。
二五四四年。
船舶事故が増えた。
航空機の航法にも小さな誤差が出始めた。
そして、
方位磁針が狂い始めた。
ほんの数度だった。
しかし世界中で起こっていた。
北が少しずつ動いていた。
二五四六年。
地球物理学者が、ある異常に気づいた。
地磁気が変化している。
磁場の強さ。
方向。
変動。
すべてが過去の記録から外れ始めていた。
調査が始まった。
太陽活動では説明できなかった。
大気でもない。
海洋でもない。
地殻でもない。
さらに深く調べた。
そして、
マントルの温度分布に異常が見つかった。
地球内部が、
少しずつ温かくなっていた。
二五四九年。
原因が分かった。
人類が地下へ送っていた熱だった。
数十年間。
人類は文明から発生する熱を、
地球の内部へ捨て続けていた。
それは大気を温めなかった。
海も温めなかった。
都市も温めなかった。
だから誰も気づかなかった。
熱は、
地球の中にあった。
そして問題は、
そのさらに下にあった。
マントルと外核の境界。
そこでは、地球内部から外へ向かう熱の流れが、
地球の磁場を作る外核の対流に影響していた。
人類がマントルを温めたことで、
その熱の流れが変わった。
外核の流れが変わった。
そして、
地磁気が変わった。
二五五三年。
渡り鳥は、ほとんど正常な渡りができなくなった。
魚の回遊も崩れた。
昆虫の行動も変わった。
農業生産は落ちた。
漁業も崩壊した。
食料価格が上昇した。
人類は食料を奪い合った。
しかし、それでも地球は止まらなかった。
さらに悪いことが起きた。
地磁気の変化が加速した。
磁場は弱くなった。
そして、
場所によって方向そのものが変化し始めた。
人類はようやく理解した。
地下へ熱を捨てることは、
熱を消すことではなかった。
ただ、
地球の別の場所へ移しただけだった。
二五五五年。
人類は地下への熱輸送を停止しようとした。
しかし遅かった。
地下にはすでに、
何十年分もの熱が蓄積していた。
しかも、
停止すれば文明が止まる。
電力を使えば熱が出る。
熱を捨てなければならない。
宇宙へ捨てるには、
以前の文明と同じ問題がある。
地下へ捨てれば、
今度は地磁気を壊す。
人類は二つの選択肢しか持っていなかった。
文明を止めるか。
地球を壊すか。
二五五八年。
地磁気はさらに不安定になった。
二五六一年。
最後の大都市が閉鎖された。
二五六七年。
最後の人間が死んだ。
地球には、
再び誰もいなくなった。
しかし、
地下の熱は残った。
地磁気も、
まだ完全には消えていなかった。
そして、
人類が作った地下の管だけが、
静かに熱を送り続けていた。
人類は、
同じ問題を二度解決した。
熱は消えなかった。
場所が変わっただけだった。
電磁気学によって、人類は滅亡した。
コメント